俳優・遠藤憲一を撮る
これは僕にとって特別な写真である。
僕が初めて遠藤憲一さんを撮ったものだ。
ここから僕の写真人生がスタートした。
2008年3月 シアターコクーン
蜷川幸雄演出「さらば、わが愛 覇王別姫」の楽屋での写真。
今はテレビや映画でコミカルな役柄も多い遠藤さんだが、当時はまだそうでもなく強面のイメージがまだ色濃かった。
初対面の遠藤さんはサングラスに煙草を吸っていた。
意外と僕は緊張していなかった。
事前に僕の作品としてマネージャーさんに渡していた、夜の高速道路の写真を見ていたようで開口一番「あの高速道路の写真いいね」と言ってくれた。
楽屋が相部屋の西岡徳馬さんに「今日、カメラが入るんですみません」と初対面の僕のために断ってくれた。
「好きに撮っていいから」と遠藤さん。
「着替えとか、好きにしちゃうからさ。どんどん撮って。」と言い、私服からジャージに着替える。
僕は慌ててシャッターを切る。
ジャージに着替えるのは、開演前にストレッチをするためだ。
「舞台に行くから来なよ」
舞台についていくと、主演の東山紀之さんがいた。
二人で談笑しながらストレッチし始めた。
東山さんも「どんどん撮ってくださいよ」と笑顔。
ストレッチをひとしきり終わると観客席へ。
僕は写真を撮っていたのだが、明らかに遠藤さんはカメラを意識している。
やはり「撮られる」という行為は被写体にとって、かなりの負担になるのではないかと僕はこの瞬間感じた。
お昼になると舞台袖から一人の男性が。
「メシでも行かないか?」
なんと蜷川幸雄さんであった。
僕はこの豪華なスリーショットにたじろいでしまった。
芸能界、俳優にそれまで縁のなかった生活を送ってきた僕には刺激的な体験に過ぎた。
そしてストレッチを終えた遠藤さんはメイクを始めた。
それもカメラに必死で抑えた。
実は後で知ったことだが、遠藤さんは舞台の仕事は少ない。
映像の仕事が多いのだ。私見だが映像の方が好きなのかもしれない。
だから、この写真は手前味噌だが珍しいものになったのではないかと思う。
これが僕の遠藤さんの最初の撮影であった。
これから俳優・遠藤憲一との10ヶ月に渡る被写体と写真家の関係が始まった。